荒川サイクリングロード(荒サイ)を往復するとき、「上流へ行くか、河口へ行くか」で迷ったことはありませんか?
荒サイはほぼ北西から南東へまっすぐ流れる川沿いの道です。そのため、その日の風向きによって「行きは楽だったのに、帰りは地獄」ということが本当に起こります。笹目橋を起点に、上流側と下流側のコースで風向き8方向ごとに計算してみました。
結論:往復なら「行きを風上へ」。
北〜北西の風なら上流へ、南〜南東の風なら河口へ向かうと、疲れてくる帰り道が追い風になります。
そしてもう一つ大事なのが、風は時間がたつと変わることです。同じコースでも、行く順番を変えただけで18分も差が出る日があります。出発前に、当日の予報で確かめておきましょう。
この記事では、出発前にコース上の風を確認する方法と、風向き別のタイムの違い、季節の傾向、走るときに注意したい点をまとめます。
荒サイの風を、いまの予報で確認できます
荒川サイクリングロードの風を見る(無料) 8時出発・平均20km/hで開きます。出発時刻と速度はあとから変えられます荒川サイクリングロードの風を今すぐ見る
上のボタンを押すと、自作の無料ツール「windcheck」に、この記事のコースが読み込まれた状態で開きます。
このコースは、笹目橋をスタートして上流の上江橋(川越市)まで行って戻り、次に河口まで行って戻ってくる、全長約106kmのルートです。上流側と下流側の両方を入れてあるので、自分が走る区間だけをグラフで見てください。
画面の見方
- 地図の色:赤・オレンジが向かい風、紫が追い風、黄色が横風かほぼ無風です。線は進む向きの左側にずらして描いているので、同じ道の行きと帰りが2本の線に分かれて見えます。
- 距離ごとの向かい風グラフ:上に伸びるほど向かい風、下に伸びるほど追い風です。このコースでは、0〜23kmが上流へ、23〜44kmが上流から笹目橋へ戻る区間、44〜74kmが河口へ、74〜106kmが河口から戻る区間です。
- 順方向/逆回り:順方向は「上流を先に、そのあと河口」、逆回りは「河口を先に、そのあと上流」です。ボタンで切り替えると、行く順番でどれだけ変わるかを比べられます。
- タイム損失:無風のときと同じ力で走った場合に比べて、何分遅くなるかの目安です。上流側だけ・下流側だけを走る人は、グラフの該当区間の色を見て判断してください。
使うときの注意
- 予報は約4日先までです。それより先の日は表示できません。
- 「おすすめ出発時刻」は風だけで決めています。日の出・日の入り、雨、混み具合は考えていないので、明るさと天気は別に確認してください。
- コースが100kmを超えるので、ツールは約2kmごとに区切って計算しています。
風速が何m/sならどれくらいきついのかは、ロードバイクの風速の目安にまとめています。
上流と河口、どっちへ行くのが楽?
コースの向き:上流側は北北西、下流側は南東
笹目橋から見ると、上流の上江橋までは約22kmで、ほぼ北北西へ進みます。河口までは約30kmで、ほぼ南東へ進みます。
つまり荒サイは、上流へ行くときは北西からの風が向かい風になり、河口へ行くときは南東からの風が向かい風になる道です。周回コースの霞ヶ浦とは違い、行きと帰りで風の当たり方がほぼ正反対になります。
風向き別のタイム差
風速3m/sの風がずっと同じ向きに吹いている、という条件で計算しました。平均20km/hなら、無風で上流側の往復(約44km)は2時間11分、下流側の往復(約63km)は3時間8分かかります。
| 風向き | 上流へ (行き) | 上流から (帰り) | 河口へ (行き) | 河口から (帰り) |
|---|---|---|---|---|
| 北 | +12分 | −9分 | −9分 | +11分 |
| 北東 | +4分 | −3分 | +2分 | ±0分 |
| 東 | −5分 | +7分 | +14分 | −10分 |
| 南東 | −10分 | +14分 | +18分 | −13分 |
| 南 | −10分 | +12分 | +12分 | −9分 |
| 南西 | −3分 | +4分 | −1分 | +2分 |
| 西 | +7分 | −5分 | −11分 | +14分 |
| 北西 | +14分 | −10分 | −14分 | +17分 |
※無風との差。体重(自転車込み)80kg、CdA 0.32、平地を一定の出力で走る仮定。橋の前後の上り下り、信号、風の強さや向きの時間変化は含みません。風速5m/sでは、北西の風で上流へ向かう行きが+26分、河口から戻る帰りが+32分になります。
表からわかることは3つです。
- 北〜北西の風なら、上流へ行くのが正解。行きで12〜14分損をしますが、帰りに9〜10分取り戻せます。逆に河口へ行ってしまうと、帰りの30kmで11〜17分遅れます。
- 南〜南東の風なら、河口へ行くのが正解。表のとおり、北風のときとちょうど逆になります。
- 往復の合計は、どの風でも少しプラス(遅くなる)。向かい風で失う時間のほうが、追い風で取り戻す時間より大きいからです。理由は下の「空気抵抗と体」で説明します。
行く順番で18分変わった実例
風が一日中同じなら、往復の合計タイムは、どちらを先に走っても変わりません。走る道がまったく同じだからです。
ところが、上の画面(11月6日8時出発、平均20km/h)では、上流を先に走る「順方向」が+0.4分、河口を先に走る「逆回り」が+18.2分と、同じ106kmで18分も差が出ています。
この差の原因は、時間がたつにつれて風の向きや強さが変わることです。どの区間を何時ごろ走るかで、向かい風を受ける時間帯が変わり、合計タイムにも差が出ます。表の数字は「風が一日中同じ」という前提の目安です。実際に走る日は、出発時刻と順番を変えながらツールで比べてみてください。「おすすめ出発時刻」も、同じ考え方で計算しています。
空気抵抗と体:医学生の視点
向かい風の損が追い風の得より大きいのは、空気抵抗が「体に当たる風の速さ」の2乗で効くからです。20km/h(約5.6m/s)で走っているときに3m/sの向かい風を受けると、体に当たる風は8.6m/sになり、空気抵抗は無風のときの約2.4倍になります。3m/sの追い風なら2.6m/sになり、約0.2倍です。増えるほうが、減るほうよりずっと大きいのです。
向かい風で同じ速度を保とうとすると、必要な出力が大きく上がります。出力が上がれば心拍数も上がり、筋肉のグリコーゲン(糖の貯金)を使うペースも速くなります。「行きを風上へ」がいいのは、タイムのためだけではありません。体に余裕がある前半に、いちばんきつい区間を済ませられるからです。逆に帰りが向かい風になると、貯金が減ってきたところで消費が増えるので、ハンガーノックの危険が高くなります。
向かい風のときは、速度ではなく「きつさ」を一定に保つのがコツです。速度計が15km/hまで落ちても、心拍数や呼吸のきつさがいつもどおりなら、それで正解です。心拍数を目安にした走り方は心拍数の記事で、向かい風に強いフォームや機材の考え方はエアロと軽量の記事で詳しく書いています。なお、感じ方や疲れ方には個人差があります。
季節ごとの風の傾向
気象庁 熊谷地方気象台によると、埼玉県は冬に北西の季節風が強く、晴れて空気が乾燥する日が多い地域です。埼玉県の資料でも、さいたま市で最も多く吹く風向き(卓越風向)は、冬が北北西、夏が南とされています。
- 冬(12〜2月ごろ):北〜北西の風の日が多くなります。表でいえば「上流へ行けば帰りが追い風」のパターンです。晴れて走りやすい日が多いぶん、風が強い日もあります。行きを上流にするだけで、帰りがかなり楽になります。
- 夏(6〜8月ごろ):南寄りの風が吹きやすくなります。河口を先にすると帰りが追い風になります。ただ夏は風より暑さのほうが問題になるので、早朝スタートがおすすめです。
- 春・秋:低気圧や前線が通るたびに風向きが変わりやすく、「この季節はこの風」とは言い切れません。熊谷地方気象台の資料では、平均風速5m/sを超える風は春と冬に多く観測されています。
ここに書いた傾向はあくまで目安です。最後は必ずその日の予報で判断してください。
風に注意したい区間
河川敷・堤防の開けた区間
荒サイはほとんどの区間が堤防の上か河川敷で、風をさえぎる建物や林がほとんどありません。荒川の中流部は河川敷がとても広く、川幅は最大で2.5kmにもなります。地図上では同じ色の区間でも、実際には予報より強く感じることがあります。向かい風の区間が何km続くのかを、グラフで先に見ておくと気持ちの準備ができます。
彩湖のあたり
笹目橋の少し上流にある彩湖のまわりは、水面が広く開けていて、風が通り抜けやすい場所です。休憩や写真を撮る人も多く、自転車と歩行者が集まりやすいので、風が強い日は特にスピードを落として走ってください。
風が強い日
横風が強い日は、ディープリムのホイールがあおられやすくなります。橋の下をくぐる前後や、堤防の切れ目では、風向きが急に変わることもあります。ツールで風速が5m/sを大きく超える予報が出ている日は、距離を短くするか、日を改めることも考えてください。
走る前のチェックリスト
- windcheckで当日の風を確認した(行きを風上にできているか)
- 都内の河川敷道路は「自転車専用ではない」ことを知っている
- 歩行者の近くでは徐行する(サイクリングロードでも歩行者優先)
- 堤防工事による通行止め・迂回の情報を確認した
- 補給食と水を持った(帰りが向かい風になる日は多めに)
- ライトとパンク修理の道具を持った
- 自転車保険に入っているか確認した
特に東京都内の区間は、自転車のための道ではありません。荒川下流の河川敷にある道路は、災害時の救助や物資の輸送のために作られた「緊急用河川敷道路」で、ふだんは歩行者やランナーも使っています。国土交通省の荒川下流河川事務所は、歩行者がいるときは自転車が徐行するよう呼びかけていて、スピードを抑えるための段差舗装も試しています。埼玉県側でも、サイクリングロードは自転車歩行者専用道路なので、歩行者が優先です。追い風でスピードが出やすい区間ほど、周りをよく見て走りましょう。
自転車保険
荒サイが通る埼玉県と東京都は、どちらも条例で自転車保険への加入が義務になっています(東京都は2020年4月から)。自転車で人にけがをさせてしまい、数千万円の賠償を命じられた判決もあります。人の多い河川敷を走る前に、自分が入っている保険で自転車事故の賠償がカバーされているか、一度確認しておきましょう。
よくある質問
Q. 森林公園まで全線走るなら、どう考えればいいですか?
荒サイは、埼玉県の武蔵丘陵森林公園から荒川河口まで、約90km続いています。全線を往復するなら、考え方はこの記事と同じで「行きを風上へ」です。自分で作ったGPXをwindcheckに読み込めば、同じように風を確認できます。
Q. 片道だけ走って、電車で帰る場合は?
片道なら、追い風になる向きを選ぶのがいちばん楽です。北〜北西の風なら上流から河口へ、南〜南東の風なら河口から上流へ走りましょう。片道のGPXを作ってツールに読み込み、「順方向」と「逆回り」を比べると、どちら向きが何分楽かがわかります。片道コースの考え方はしまなみ海道の風の記事でも詳しく書いています。
Q. 初心者でも走れますか?
坂がほとんどないので、初心者にも走りやすい道です。まずは笹目橋から上流側の往復(約44km)くらいから始めるのがおすすめです。向かい風の日は、無理に速度を保とうとせず、きつさを一定に保って走ってください。
Q. 何時に出発するのがいいですか?
風だけで考えるなら、ツールの「おすすめ出発時刻」が目安になります。ただし、おすすめ出発時刻は風だけで決めていて、明るさや雨、混み具合は含みません。週末の昼間は、河川敷の歩行者や他の自転車も増えます。明るいうちに戻れて、混雑も少ない時間帯から逆算して決めてください。
まとめ
- 荒サイは、上流側が北北西、下流側が南東へ向かう、風の影響を受けやすいコース
- 往復なら行きを風上へ。北〜北西の風なら上流へ、南〜南東の風なら河口へ
- 冬は北西の季節風が多いので、まずは上流へ向かうと帰りが楽になりやすい
- 風は時間で変わる。行く順番だけで18分変わる日もあるので、出発前にツールで比べる
- 都内の河川敷道路は自転車専用ではない。歩行者の近くでは徐行
「今日はどっちへ行こう」と迷ったら、出発前に、帰りが追い風になるかどうかだけでも確かめておきましょう。それだけで、帰り道がずいぶん楽になります。
出発前に、当日の風を確認しておきましょう
荒川サイクリングロードの風を見る(無料) 予報は約4日先まで。出発時刻・平均速度・行く順番を変えて比べられます参考にした情報
- 気象庁 熊谷地方気象台「埼玉県の気候の特徴」 https://www.data.jma.go.jp/kumagaya/shosai/chishiki/tokutyou.html
- 気象庁 熊谷地方気象台「埼玉県の風」 https://www.data.jma.go.jp/kumagaya/shosai/chishiki/kaze.html
- 埼玉県 地震被害想定調査(気象条件・卓越風向) https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/3447/607222.pdf
- 埼玉県「県内のサイクリングロード」 https://www.pref.saitama.lg.jp/a1006/gurutto/gurutto-cycle.html
- 国土交通省 荒川下流河川事務所「荒川下流河川敷利用ルール」 https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000835525.pdf
- 国土交通省 荒川下流河川事務所「荒川下流河川敷における高速走行自転車のスピード抑制対策の試行について」 https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000948273.pdf
- 国土交通省 関東地方整備局「荒川の現状と課題」 https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000620500.pdf
- 内閣府「交通安全白書」自転車損害賠償責任保険等への加入促進 https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/r02kou_haku/pdf/zenbun/t6.pdf
- マイナビニュース「埼玉県のおすすめサイクリングコース」 https://news.mynavi.jp/article/20210916-1972769/
