ポガチャルの筋トレ・ジムトレの中身は? 公開情報と論文から医学生が読み解く

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ポガチャルは、ジムで筋トレをしています。これは、コーチのハビエル・ソラ本人が公の場で語っていることです。ただし、どの種目を、何キロで、週に何回やっているのかまでは、私が調べた範囲では公開されていませんでした。

ネット上には「スクワット○キロ」といった具体的な数字も出回っていますが、一次情報が確認できなかったので、この記事では使いません。その代わりに、①ポガチャル陣営が公開していることと、②持久系ライダーの筋トレについて論文でわかっていることを切り分けて整理しました。そのうえで、医学生の目線から、一般のライダーが無理なく真似できる12週間のメニュー例まで書いています。

結論:ポガチャルの筋トレについて

  • わかっていること筋力トレーニングは「補助ではなく中心的な柱」(コーチ談)。2024年から強化され、2026年はさらに増やす方針と報じられている
  • わからないこと具体的な種目・重量・回数・頻度。公式には出ていない
  • 論文の裏づけ週2回・4〜10RM・2〜3セットの高重量トレが、持久系ライダーの長時間後のパワーを高めた研究がある
  • 真似するなら「プロのメニュー」ではなく、論文ベースの一般的な構成から。骨の面でも筋トレは有利

※この記事の12週間メニューは、ポガチャルの実際のメニューではなく、論文で使われた条件を参考にした一般的な例です。

先に読むと分かりやすい マチュー・ファンデルプールのペダリング解剖学:大臀筋の使い方がロードバイクの常識を覆す理由 「なぜ高重量が必要なのか」の前提はこちら。この記事は、その具体的なメニュー編です。

2026年のポガチャルは、予定より早く「オフシーズン」に入った

筋トレの話の前に、いまのポガチャルの状況を確認しておきます。2026年のブエルタ・ア・エスパーニャで、彼は思わぬ形でシーズンを終えることになりました。

  • ブエルタ第8ステージ総合で約4分のリードを持って走っていた中、高速で落車。首の骨折(安定型)、鎖骨骨折、脳震盪と報じられ、レースを離脱
  • 8月31日鎖骨の手術。脳震盪の影響で、手術は2日遅れたと伝えられている
  • 9月中旬自宅のローラーで再始動。「鎖骨も頭も大丈夫」と本人がInstagramで報告。世界選手権は欠場し、2026年シーズンは終了
  • 9月17日「一歩ずつ、来シーズンに向けて少しずつ作り直している」とコメント。MyWhoosh(室内トレーニング)での構造化セッションを開始

ここで大事なのは、今回の報道では、怪我からの復帰過程でジムトレーニングをしているとは伝えられていないという点です。復帰の最初はローラーでの軽い運動からで、筋トレをいつ、どう再開するかは個人の怪我の状態によって違うため、ここは推測せずに置いておきます。

ポガチャルの筋トレ:公開情報で「わかること」と「わからないこと」

ポガチャルの筋トレについて、チームのコーチ陣が公に語っている内容を整理しました。

区分内容出典
わかる2024年の変更点として、ジムでの筋力トレーニングを追加した(コーチのソラ)TOUR誌 インタビュー(2025年1月)
わかる筋力と高強度の追加がソラ導入の大きな変更点。筋力にはまだ少し伸びしろがあり、ポジション維持にも関係するとの見解(スポーツ科学者スワート)同上
わかる筋力トレは「補助ではなく中心的な柱」。高重量の抵抗トレで筋肉の耐久性を高め、レース終盤でも出力を保てるという考え方ソラのコメント(2026年1月、ベニドルムのキャンプ)
わかる2026年は、有酸素の量を保ったまま筋力と強度を増やす方針。2025年の伸びは筋力重視の成果としているBrújula Bike(2026年1月)
わかる狙いは筋肉量の増加と体組成の調整、ミラノ〜サンレモなど春のクラシックへの早い仕上がり、と報じられている(チームスタッフの話として)Brújula Bike(2025年1月)
わからない種目、セット数、重量、頻度、1RM(1回だけ挙げられる最大重量)、トレーニングの時期の細かい配分公開情報なし

※2025年のBrújula記事は「チーム側の報告に基づく」とされ、コーチ本人の直接の発言ではありません。

「筋トレをしている」ことは確かで、しかもコーチが最重要の柱の一つに挙げている。これが公開情報から言える全部です。逆に言えば、種目や重量の話は「ポガチャルのメニュー」と称して語られていても、根拠を確認できないものは鵜呑みにしないのが安全です。

関連記事 タデイ・ポガチャルの最強ポジション! 医学生が教える生体力学と取り入れ方 筋力が「ポジションを保つ力」に関わるという話の続きは、こちらのポジション解説で。 乗る側のメニューはこちら ポガチャルが最強の理由! トレーニングメニューを紐解く ゾーン2・SST・VO2maxインターバルなど、バイク上のトレーニングの考え方をまとめています。

なぜ持久系の選手が、重いバーベルを持つのか

「ロードバイクは脚を使うスポーツなんだから、乗っていれば脚は鍛えられるでしょう?」。私も以前はそう思っていました。でも、ペダリングは1回あたりの負荷が小さい動きを何万回も繰り返す運動です。最大筋力を上げるには、それとは別の刺激が必要になります。

研究①:筋トレを足した自転車選手は、長時間走ったあとの5分間全力が約8%上がった

ノルウェーのレンネスタッドらが2011年に報告した研究が、とても分かりやすいです。よくトレーニングされた自転車選手20人を2群に分け、片方には普段の持久トレに加えて週2回、12週間の筋トレ(下半身の4種目、各3セット、4〜10RM)を行わせました。

371→400W筋トレ群:5分間全力の平均パワー
変化なし持久トレのみの群
185分全力の前に走り続けた時間

注目してほしいのは、全力走の前に185分も走っている点です。筋トレ群は、その終盤の1時間で酸素消費量、心拍数、血中乳酸、主観的なきつさがより低く抑えられていました。「疲れたあとにどれだけ力を出せるか」が上がった、ということです。

これは、ソラが語る「筋肉の耐久性」という説明と、方向としてはよく合います。ただし、この研究はポガチャルが対象ではなく、人数も少ない研究なので、「だからポガチャルもこの理由で強い」と言い切ることはできません。あくまで筋トレが持久系の選手に有効とされる根拠の一つ、という位置づけです。

研究②:レビュー論文が示す「実用的な条件」

2014年のレンネスタッドとムジカのレビュー論文は、持久系の競技者向けの筋トレについて、次のようにまとめています。

  • 高重量が推奨される:1〜15RMの範囲で、実用的には4〜10RMを2〜3セット、セット間は2〜3分休む
  • 頻度:週2回を約12週間続ければ筋力が伸びやすい。シーズン中は、週1回の高強度でも維持できる可能性がある
  • 挙げるスピード:持ち上げる局面は、できるだけ素早く動かす意識が有効とされる
  • 筋肥大は小さい:持久トレと併用した場合、対象の筋肉の増加は約3〜6%程度。体重の増加や最大酸素摂取量の低下は見られなかった

医学の視点:「筋肉がつきすぎて重くなる」心配について

「筋トレをすると体が大きくなって登りが遅くなる」という不安はよく聞きます。上のレビューによれば、持久トレと並行した高重量トレでの筋肥大はわずか(約3〜6%)で、体重増加も報告されていません。持久トレの量が多いと、筋肉を大きくする経路が働きにくくなる可能性も指摘されています。ただし、研究の数は限られていて、個人差も大きい分野です。食事量が足りているか、のほうがむしろ重要になります。

筋力が上がると、同じワット数を出すときに「その人の最大筋力に対する負担の割合」が下がります。この余裕の分だけ、長時間の終盤で踏める、という説明がよく使われます。こうした仕組みの解釈は研究者の間でも議論が続いているので、「そう考えられている」程度に受け取ってください。

関連記事 ポガチャルの身長・体重・FTPは? 数字で読む「世界最強のエンジン」を医学生が解説 「疲れてから出せるパワー(デュラビリティ)」の話は、こちらの記事の最後でも触れています。

自転車だけでは骨は強くならない:筋トレのもう一つの意味

筋トレの理由はパワーだけではありません。ロードバイクは、体重がサドルとペダルに支えられた「非荷重」の運動です。ジャンプや走るときのような骨への衝撃がほとんどありません。

スペインのオルメディージャらによる、自転車と骨の健康についてのシステマティックレビュー(31件の研究)は、ロードバイクには、骨を強くする明確な効果は見られないと結論づけています。競技者では骨密度が低い例も報告されていて、筋トレなど骨に荷重をかける運動を併用することが勧められています。

医学の視点:骨密度は「若いうちの貯金」

骨量は10代〜20代でピークに達し、その後は少しずつ減っていくと考えられています。この時期に十分な栄養と荷重刺激があるかどうかが、将来の骨折リスクにも影響します。ロードバイクが好きで、しかも減量を意識しがちな人ほど、筋トレや食事の面での「骨の貯金」を意識してほしいです。

若くして頂点に立ったポール・セクサスの記事では、エネルギー不足(RED-S)と骨密度のリスクについて詳しく書きました。筋トレを減量中の「おまけ」にせず、体を守る手段として考える視点は、この記事とも共通しています。

関連記事 ポール・セクサスは第2のポガチャルか? 医学生が生理学から読み解く強さとリスク

一般ライダー向け:論文ベースの12週間メニュー例

ここからは、ポガチャルのメニューではありません。先ほどの論文の条件(週2回・4〜10RM・2〜3セット・12週間)を参考に、私が組み立てた一般的な例です。種目は、大臀筋・ハムストリングス・大腿四頭筋という、ペダリングの主役を中心に選びました。

種目セット×回数(5〜12週目)主な狙い
スクワット(バーベル、またはゴブレット)3 × 6〜8回大腿四頭筋・大臀筋。下半身全体の最大筋力
ルーマニアン・デッドリフト3 × 6〜8回大臀筋・ハムストリングス。股関節を伸ばす力
ブルガリアンスクワット、またはステップアップ2〜3 × 8回(左右)片脚の安定性。左右差の確認
ヒップスラスト3 × 8回大臀筋にしっかり効かせる
カーフレイズ3 × 10回ふくらはぎ。ペダルへの力の伝達
プランク、デッドバグなど2〜3セット(各30〜45秒)体幹。骨盤を安定させる

※「RM」は、その回数がぎりぎりできる重さのことです(8RM=8回でほぼ限界の重量)。セット間は2〜3分休みます。

12週間の進め方(目安)

  • 1〜4週目(フォームづくり):軽めの重量で8〜12回。まずは正しい動きを体に覚えさせる。重量を追わない
  • 5〜12週目(高重量期):上の表の回数で、最後の1〜2回がきつい重さに。フォームが崩れる前にやめる
  • レース・ロングライドが増える時期:週1回に減らして維持する(レビューでは、シーズン中は週1回の高強度でも維持できる可能性があるとされています)

この段階の分け方は、論文そのままではなく、安全面を考えた私の提案です。持ち上げるときは、できるだけ素早く動かす意識を持つと良いとされています。

始める前の注意

  • 腰痛、膝の痛み、持病や通院中の病気がある人は、始める前に医師や理学療法士に相談してください
  • 初めてのデッドリフトやスクワットは、フォームの確認ができる人(トレーナーなど)に見てもらうのが安全です
  • 減量中やエネルギー不足のときに、高重量を追うのは避けてください。回復が追いつかず、怪我の原因になります
  • 痛みが出たら中止。「効いている筋肉痛」と「関節や腰の痛み」は別物です

作業重量の目安計算機

いま「ぎりぎり挙げられた重さ」と「その回数」を入れると、4〜8RMの目安重量がわかります。

–推定1RM
–8RMの目安
–6RMの目安
–4RMの目安

※Epley式(1RM=重量×(1+回数÷30))による推定です。10回までの範囲で使ってください。体調や種目で誤差が出るので、あくまで出発点として。最大重量(1RM)そのものを測るテストは、慣れるまでしないでください。

高重量を扱える環境をどう確保するか

先ほどの表の種目は、バーベルやラック、プレートといったフリーウエイトの設備があって初めて、重量を少しずつ上げていけます。自重だけでは負荷が固定されてしまい、慣れるとそれ以上伸びません。このあたりは、ファンデルプールの記事でも書いたとおりです。

実習や仕事で時間が不規則な人にとっては、フリーウエイトがあって24時間使えるジムだと、週2回の枠を確保しやすいと思います。通いやすさが続けられるかどうかを大きく左右するので、まずは自宅や職場の近くに、そうした設備のある店舗があるかどうかを見てみるのも一つの方法です。

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「ジムに通えない時期や、まず自宅で動きを覚えたい人には、重さを変えられるダンベルが選択肢になります。ゴブレットスクワットやルーマニアン・デッドリフトの入口に使えます」。

まとめ:ポガチャルのジムは「見えない土台」。真似するなら論文から

ポガチャルが筋トレをしていること、そしてコーチがそれを「補助ではなく中心的な柱」だと語っていること。ここまでは確かな情報です。一方で、具体的なメニューは公開されていません。だからこそ、「ポガチャルのメニュー」を探すより、持久系ライダーを対象にした研究の条件を参考にするほうが、ずっと確かな出発点になると私は考えています。

2026年の彼は、怪我で予定より早くオフシーズンに入りました。来シーズンに向けて、一歩ずつ体を作り直していくところです。私たちにとっても、10月から冬にかけては、ジムで土台を作るのに向いた季節です。無理をせず、まずは週2回、軽い重量からフォームを整えるところから始めてみてください。

よくある質問

ポガチャルは筋トレをしていますか?

しています。コーチのハビエル・ソラは、筋力トレーニングを「補助ではなく中心的な柱」と語っています。2024年から強化され、2026年はさらに筋力と強度を増やす方針と報じられています。

ポガチャルのジムでの種目や重量は?

公式には公開されていません。ネット上の具体的な数字は、出典を確認できなかったため、この記事では扱っていません。

ロードバイク乗りは、週に何回筋トレをすればいいですか?

レビュー論文では、週2回を約12週間続けると筋力が伸びやすく、シーズン中は週1回でも維持できる可能性があるとされています。仕事や学業、他のトレーニングとの兼ね合いで調整してください。

筋トレをすると筋肉がつきすぎて重くなりませんか?

持久トレと並行した高重量トレでは、筋肥大は約3〜6%と小さく、体重の増加も報告されていません。ただし個人差があり、研究数も限られています。

ロードバイクだけで骨は強くなりますか?

システマティックレビューでは、ロードバイクに明確な骨を強くする効果は見られないとされています。荷重をかける運動を併用することが勧められています。

参考にした情報

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