「しまなみ海道、今治から行くか尾道から行くか」。これ、サイクリングの計画でいちばん悩むところですよね。
先に結論を書きます。しまなみ海道のサイクリングで楽な向きは、その日の風で決まります。コースはほぼ「北北東」に向かって伸びているので、南〜南西の風なら今治→尾道、北〜北東の風なら尾道→今治が楽です。同じ3m/sの風でも、向きを間違えると40分ほど遅れる計算になります。
僕は3月に今治→尾道を走りました。朝8時ごろに出て、その日はずっと追い風。「追い風だね」と言われて「たしかに」と気づくくらいの、やさしい風でした。ただ、それはたまたま風向きが合っていただけ。この記事では、しまなみ海道の風の考え方と、出発前にその日の風をコース上で確認する方法をまとめます。
しまなみ海道の風を、コース上で今すぐ見る
天気予報アプリで「今治 北の風3m/s」と見ても、しまなみ海道のコースは島を回り込んで向きをくるくる変えるので、どこで向かい風になるのかまでは分かりません。そこで作ったのが、ルートの区間ごとに「その時刻に通る場所の風」を出すツールwindcheckです。
画面の見方はシンプルです。
- 地図の色:赤・オレンジが向かい風、紫が追い風。どの島のどのあたりで風を受けるかが分かります
- タイム損失:同じ出力で走ったとき、無風に比べて何分遅れる(早くなる)か
- 順方向/逆回り:ボタン1つで尾道→今治の計算に切り替わります。「どっち回りが楽?」はここで比べるのがいちばん早いです
- おすすめの出発時刻:前後数時間で、風の影響が最も小さい出発時刻を出します
ひとつ注意があります。おすすめの出発時刻は風だけで決めています。上の画面では「19:00出発が最も楽」と出ていますが、11月の19時は真っ暗です。明るさ・雨・宿や船の時間は自分で判断してください。予報が出るのは約4日先までなので、前日の夜と当日の朝に見直すのがおすすめです。
なお、ボタンから開くと平均速度20km/h・朝8時出発が入った状態になります。自分のペースに合わせて書き換えてください。手元のGPXを読み込めば、しまなみ以外のルートでも使えます。
今治→尾道と尾道→今治、どっち回りが楽?
コースはほぼ「北北東」向き。だから南寄りの風が追い風
今回使ったルート(サンライズ糸山付近→尾道、約70km)をGPSデータで調べると、スタートからゴールを結んだ向きは北北東(約32°)でした。区間ごとに見ても、進む向きは「北東向き」が約34%、「北向き」が約21%、「東向き」が約16%、「北西向き」が約14%。島を回り込むぶんバラけますが、全体としては北〜北東に進むコースです。
そこで、windcheckと同じ計算式で「3m/sの風が一日中同じ向きに吹いたら?」を8方向ぶん試算してみました(平均20km/h・平地で一定の出力を保つと仮定)。無風なら約3時間31分のコースです。
| 風向き (吹いてくる方位) | 今治→尾道 | 尾道→今治 | 楽な向き |
|---|---|---|---|
| 北 | +35分 | −24分 | 尾道→今治 |
| 北東 | +40分 | −28分 | 尾道→今治 |
| 東 | +23分 | −13分 | 尾道→今治 |
| 南東 | −4分 | +12分 | 今治→尾道 |
| 南 | −24分 | +35分 | 今治→尾道 |
| 南西 | −28分 | +40分 | 今治→尾道 |
| 西 | −13分 | +23分 | 今治→尾道 |
| 北西 | +12分 | −4分 | 尾道→今治 |
※体重80kg・空気抵抗係数CdA 0.32などを仮定した簡易計算です。橋へのアプローチの上りや信号、休憩は含みません。実際の風は場所や時間で変わるので、本番はwindcheckで当日の予報を見てください。
表から分かることは3つあります。
- 北東の風がいちばん効く:今治→尾道で+40分。逆に南西の風なら同じだけ得をします
- 北西・南東の風は「ほぼ横風」:差は小さめ。ただし後で書くとおり、橋の上では横風こそ要注意です
- 向かい風の損は、追い風の得より大きい:北東の風3m/sで、向かい風側は+40分、追い風側は−28分。差し引きゼロにはなりません
向かい風の損が大きいのは「空気抵抗が速度の2乗」だから
3つ目は、医学生として体の側から少し補足させてください。
空気抵抗は「自分に当たる風の速さ」の2乗で効いてきます。20km/hで走っていて3m/sの向かい風を受けると、体に当たる風は約31km/h。追い風なら約9km/h。抵抗の増え方と減り方が対称にならないので、向かい風の損が大きく出ます。
そして、表は同じ出力を保った場合の数字です。実際には、向かい風で遅れを取り戻そうとして踏んでしまいがち。出力を上げると心拍が上がり、糖(グリコーゲン)を使うペースも一気に速くなります。70km・3〜4時間のしまなみ海道では、これが後半の失速やハンガーノックにつながります。向かい風の区間こそ「速度ではなく、きつさを一定に」が鉄則です。心拍を使ったペースの目安はロードバイクの心拍数の目安の記事にまとめています。
僕が3月に走ったとき
3月、今治側から朝8時ごろにスタートして、尾道までずっと追い風でした。とはいえ、背中を押される!というほどではなく、一緒に走った友達に「今日追い風じゃない?」と言われて気づいたくらい。上の表でいえば、南寄りの弱い風が吹いていた日だったんだと思います。
ここで言いたいのは、「今治→尾道が正解」ではないということです。僕の日はたまたま風向きが合っただけで、北東の風の日に同じ向きで走っていたら、40分近く余計にかかっていたかもしれません。どっち回りにするかは、出発の前日〜当日に決める。これがいちばん確実です。
季節ごとの風の傾向
まず大前提として、瀬戸内海は北の中国山地と南の四国山地に挟まれているため、季節風の影響を受けにくい海です。そのかわりに目立つのが海陸風。晴れた日中は海から陸へ「海風」、夜は陸から海へ「陸風」が吹き、入れ替わる朝夕には風が止む「凪(なぎ)」がはっきり出やすいと言われます。特に夏の夕方の「瀬戸の夕凪」は有名です。
ただし、しまなみ海道は島と海峡が入り組んでいて、島ごと・海峡ごとに風の向きが変わります。海風は「海から陸へ」なので、島の北側と南側では逆向きになることもあります。以下は傾向として読んでください。
- 冬(12〜2月):冬型の気圧配置が強まる日は、山を越えてきた北西〜西寄りの風が強まることがあります。北西の風はこのコースではほぼ横風です。気温も低いので、風の強い日は無理をしないのが一番
- 春(3〜5月):低気圧と高気圧が交互に通り、日によって風向きが大きく変わる季節。僕のように追い風の日もあれば、まったく逆の日もあります。前日〜当日の確認がいちばん効く季節です
- 夏(6〜8月):晴れた日は海陸風が中心。日中の海風は島ごとに向きが変わり、朝夕は凪になりやすいので、暑さ対策も兼ねて早朝スタートが走りやすいです
- 秋(9〜11月):台風が近づく時期は別として、気候が安定して走りやすい季節。秋が深まると、冬型に近い北寄りの風の日も増えてきます
結局のところ「この季節はこっち回り」と決め打ちできるほど、しまなみの風は単純ではありません。季節の傾向は目安にとどめて、当日の予報で決めるのがおすすめです。
風に注意したい区間
橋の上は、地上よりも風が強い
しまなみ海道でいちばん風を感じるのは、やっぱり橋の上です。たとえば因島大橋の自転車道は海面から約50mの高さにあります。天気予報の風速は地上10mの高さが基準なので、それより高く、さえぎるもののない海の上では、予報より強い風を受けると考えておいたほうが安全です。
そして怖いのは向かい風より横風。前に進まないだけの向かい風と違って、横風は自転車ごと横に押されます。特に、島の陰から橋の中央に出た瞬間や、主塔の横を抜けた瞬間は、風が急に強くなります。
僕が走った日も、ディープリムのホイールを履いた友達は橋の上で少しふらついていました。気をつければ大丈夫なレベルでしたが、リムが深いほど横風の影響を受けやすいのは確かです。ディープリムで行く人は、ハンドルをしっかり握り、橋の上ではスピードを控えめに。エアロ機材と風の関係はエアロと軽量化の記事でも取り上げています。
島の海沿いは、さえぎるものがない
橋を降りた島内も、海沿いの区間は風を正面から受けます。逆に、内陸に入ったり山の陰に入ったりすると、風がふっと弱まります。windcheckの地図で色が細かく切り替わるのはこのためです。向かい風の区間が長く続く島が分かっていれば、そこを「踏ん張りどころ」として補給や休憩の計画を立てられます。
強い風の日は、そもそも走らない判断を
しまなみ海道(西瀬戸自動車道)を管理する本四高速では、自動車の場合、10分間の平均風速15m/s以上で速度規制、25m/s以上で原則通行止めという基準を設けています。ただ、これはあくまで自動車の基準です。自転車がふらつき始めるのはもっとずっと低い風速です。何m/sから走るのをやめるかの目安はロードバイクの風速の目安の記事で詳しく解説しています。
走る前のチェックリスト
- 前日の夜と当日の朝に、windcheckで風を確認:順方向と逆回りを比べて、どっち回りにするか決める
- 橋の上の横風を想定する:ディープリムの人は特に。風速の目安は風速の目安の記事へ
- 補給を持つ:70km・向かい風なら4時間を超えることも。島にはお店もありますが、「次で買おう」が一番危険です。補給の考え方はハンガーノック対策の記事へ
- 向かい風ではペースではなく、きつさを一定に:心拍数の目安の記事へ
- 自転車保険に入っているか確認:下で説明します
しまなみ海道は、愛媛も広島も自転車保険が「義務」
意外と見落としがちなのが自転車保険です。しまなみ海道がまたがる2県は、どちらも条例で自転車保険(他人にけがをさせたときの賠償をカバーする保険)への加入を義務にしています。愛媛県は2020年4月から、広島県は2023年4月からです。
レンタサイクルは貸す側が保険に入る決まりですが、自分のロードバイクを持ち込む人は自分で入っておく必要があります。自動車保険や火災保険の特約、クレジットカードの付帯保険などで、すでにカバーされていることもあるので、まずは手持ちの保険を確認してみてください。入っていなければ、出発前にネットで加入しておくと安心です。
ちなみに、しまなみ海道の橋の自転車通行料は「しまなみサイクリングフリー」で無料になっていて、2028年3月末まで延長されています。浮いた通行料は、補給食に回しましょう。
よくある質問
Q. しまなみ海道は、風速何m/sくらいまでなら走れますか?
A. 予報で5m/sを超えると向かい風がはっきりきつくなり、7m/sを超えると横風でふらつく危険が出てきます。橋の上は予報より強い風を受けると考えて、余裕を持って判断してください。詳しくはロードバイクの風速の目安で解説しています。
Q. 初心者は今治→尾道と尾道→今治、どっちがおすすめですか?
A. 風で決めるのがおすすめです。南〜南西寄りの風なら今治→尾道、北〜北東寄りの風なら尾道→今治。風が弱い日なら、帰りの交通手段や宿の場所で決めてかまいません。windcheckの「順方向/逆回り」ボタンで、その日の差を比べられます。
Q. 何日前から風を確認できますか?
A. windcheckは気象庁の予報モデル(Open-Meteo経由)を使っていて、約4日先まで見られます。予報は直前ほど当たりやすいので、最終判断は前日の夜か当日の朝にするのがおすすめです。
Q. ディープリムのホイールで行っても大丈夫ですか?
A. 風の弱い日なら問題なく走れます。僕が走った日も、ディープリムの友達は少しふらついたものの、気をつければ大丈夫でした。ただ、横風の強い日は橋の上で押されやすいので、予報で横風が強そうなら、スピードを落とす・リムの浅いホイールにするなどの対策を考えてください。
まとめ:しまなみ海道は「風で回り方を決める」と楽になる
- コースはほぼ北北東向き。南〜南西の風なら今治→尾道、北〜北東の風なら尾道→今治が楽
- 3m/sの風でも、向きを間違えると最大40分ほど遅れる計算。向かい風の損は追い風の得より大きい
- 瀬戸内海は海陸風が中心で、季節だけでは決めにくい。前日〜当日の予報で決めるのが確実
- 橋の上は横風に注意。ディープリムの人は特に
- 愛媛・広島はどちらも自転車保険が義務。自分の自転車で行く人は加入を確認
僕の3月のしまなみは、運よく追い風でした。でも次に走るときは、運ではなく、ちゃんと風を見て回り方を決めるつもりです。みなさんも、出発前にコース上の風をのぞいてみてください。
参考にした情報
- tenki.jp「海陸風と凪」(瀬戸内海の海陸風と夕凪)
- くるまのニュース「荒天時、高速道路は『海上区間』に注意」(本州四国連絡高速道路の通行規制基準)
- 日本建設機械施工協会『建設機械施工』2017年6月号(因島大橋の自転車道)
- 愛媛県「愛媛県自転車の安全な利用の促進に関する条例」改正(2020年4月 保険加入義務化)
- 広島県「広島県自転車の活用の推進及び安全で適正な利用の促進に関する条例」(2023年4月 保険加入義務化)
- 広島県「しまなみ海道自転車通行料金無料化の継続が決定しました」(2028年3月末まで)
